サラリーマンが60歳の定年を迎えた時の選択として、今は「再雇用」が主流だ。
その理由としては、人生100年時代と言われるように平均寿命が伸び、高齢化が進んだことがあげられる。高齢化の進展で年金の支給開始年齢は60歳から65歳に引き上げられ、サラリーマンは定年後も年金が受け取れるようになるまで収入を確保しなければならない。また、年金の支給開始年齢が引き上げられる一方で、企業には従業員の65歳までの雇用を確保することが義務付けらている。こうした社会情勢の下、取り得る手堅い選択肢として「再雇用」が選ばれている。
年金支給開始年齢の引上げ
年金支給開始年齢の65歳への引上げは最終段階を迎えつつあり、1961年(昭和36年)4月2日以降に生まれた男性サラリーマン(2021年9月1日時点で59歳)は65歳になるまで年金を受け取ることが出来ない。年金には「繰上げ受給」という制度があり、60歳から年金を受け取ることは可能だが、年金の受給開始を65歳から60歳に繰り上げると、受け取る年金の額は30%減額されることになる。
定年の引上げ
年金の支給開始年齢が引き上げられる一方、企業の定年を60歳から65歳に引き上げる法整備が行われた。企業には2025年(令和7年)4月から定年を65歳とすることが義務付けられており、定年を65歳未満としている企業は、それまでの間、
① 定年の65歳への引上げ
② 希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度(再雇用・勤務延長)の導入
③ 定年制の廃止
のいずれかの措置を実施しなければならない。
2019年(令和元年)の厚労省の調査によれば、②の継続雇用制度を実施している企業が77.9%(①は19.4%、③は2.7%)と全体の約8割を占めており、60歳の定年に達した従業員のうち84.7%が「再雇用」などで継続雇用となっている。また、2018年(平成30年)の人事院の調査によれば、「再雇用」制度がある企業は95.3%、「勤務延長」制度がある企業は8.0%(両制度を有する企業もあることから合計が100%を超える)となっており、「再雇用」制度を設けている企業が多数を占めている。
※「再雇用」制度 ・・・ 一旦退職した従業員を再び雇用する制度。「勤務延長」制度・・・ 定年に達した従業員を退職させることなく引き続き常勤の従業員として雇用する制度。
「再雇用」のメリットとデメリット
被用者の側から見た「再雇用」のメリットとしては、改めて職探しをすることなく、慣れ親しんだ雇用環境の中で定期的な収入を引き続き受けることができる点があげられる。また、フリーランスや自営業との比較では、一定の要件を満たせば、厚生年金に加入することで将来受け取れる年金の額を増やせることのほか、給付などの点でよりメリットが大きいとされる健康保険(組合健保・協会けんぽ)に加入できることなどがメリットとしてあげられる。さらに、労災保険の補償が受けられることもメリットと言えるだろう。
他方でデメリットとしては、一定の雇用条件の下で働くことになるため自由な働き方ができないことや、一般的な傾向として、現役時代に比べて与えられる仕事のやり甲斐や給与の水準が低下することなどが指摘される。パーソル総合研究所の調査によれば、定年後再雇用者の年収は平均で44.3%低下しているとのことである。もっとも給与水準の低下については、他に同等以上の収入を得る道がないのであれば、デメリットと言えない面もあるだろう。
また、企業に義務付けれているのは65歳までの雇用であることから、「再雇用」の場合、その後も働きたければ65歳で改めて職探しをしなくてはならないということがある。ただ、この点については、法改正により、2021年(令和3年)4月から、企業に対して70歳までの雇用または就業を確保する努力義務が課されることとなった。今後、70歳までの継続雇用制度を導入する動きも出てくるものと見られる。
まとめ
年金の支給開始年齢の引上げや定年の引上げなどの制度の変更があったことに加え、「再雇用」のメリットを考えれば、60歳の定年を迎えた時の身の振り方として、特に経済的な面から考えれば「再雇用」が手堅い選択と言えるだろう。
ただ、人生の節目における選択は人それぞれであるはずだ。無理のないライフプラン、マネープランが描けるのであれば、自らの人生観を踏まえ、サラリーマン時代の経験や定年までに身に着けた知識やスキルを活かすべく、新しい職場への再就職やフリーランスへの転身など、異なる世界、新たなステージに一歩を踏み出すことも決して誤った選択ではないように思える。
(参考文献・資料)
- 厚生労働省「令和元年『高年齢者の雇用状況』集計結果」(2019年11月)
- 人事院「平成30年民間企業の勤務条件制度等調査結果の概要」
- パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識」(2021年5月)
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